ダーウィンが「進化」という着想を公表してから久しい。アインシュタインが一般相対性理論という着想を公表してからも久しい。コペルニクスやガリレオが天動説を唱えて「天と地がひっくり返った」コペルニクス的転回からは、もっと久しい。人類は、このようないわゆる〈パラダイムシフト〉と呼ばれる変革や転回を何度も経験してきた。21世紀以降、そして少なくとも今後数十世紀(数1000年)間――あるいは太陽が超新星爆発に至るまでの宇宙の進化の長期間――の社会、地球、宇宙を俯瞰し、描像を描き、その描像を科学的に記述し、具体的に実行してゆくというのが本機構の"Cosmological Strategy(コスモロジカル・ストラテジー)"である。一見、天文学的とも見えるこの長期間やストラテジーも、全宇宙史138億年から見れば、ほんの一瞬にも満たないわずかな期間のことに過ぎないのかもしれない。
よく知られているように、中世ヨーロッパのキリスト教世界では天動説が大前提だった。18世紀・19世紀以降、キリスト教的世界観に代わって、産業革命や近代科学・科学技術の発展によって、近代科学的世界観が台頭してきた。20世紀までには、ニュートン力学、マクスウェル電磁気学、クラウジウスの熱力学など古典物理学の確立、ダーウィンの進化論の成立と発展、顕微鏡や医療機器の発明による医療機器医学の成立等々、近代科学がめざましい発展を謳歌した時代だった。科学技術や科学的発見や真理はもはや出尽くした……そういう過剰な自信が20世紀初頭のヨーロッパには蔓延していた。その過剰な自信を完膚なきまでに打ち砕いたのが、アインシュタインの創始した相対論と、ボーア、シュレディンガーらの創始した量子論であった。この2つの革命は、ついに全古典物理学をひっくり返してしまった。
しかし、その革命的だったパラダイムシフトも、21世紀を過ぎた今では、すでに色あせてきている。1917年にハッブルが宇宙膨張を発見したが、2012年、その宇宙膨張が急速に加速しているという驚くべき観測結果が確定したことによってパールムッター(超新星宇宙論プロジェクト)、ブライアン・シュミットとアダム・リース(ハイゼット超新星探索チーム)にノーベル物理学賞が与えられた。一般相対論発表直後のアインシュタインが固執した(後に撤回した)定常宇宙論どころか、ハッブルの通常膨張宇宙論でさえ、もはや完全に破綻したのだ。相対論と量子論は究極の所では互いに矛盾し、相対論が成り立たないフィールドがあることもわかってきている。全分野・全次元・全宇宙史を通じて普遍的に成り立つような更なる新しい理論や科学技術が求められている。佐藤勝彦博士やアラン・グースらが提唱した宇宙創成直後のインフレーション宇宙論は、直接的決定的証拠はまだ発見されていないものの、すでに現代宇宙論の中に公然と組み込まれている。しかし、量子重力論や超対称性理論や超弦理論、新インフレーション宇宙論やサイクリック宇宙モデルなどが21世紀の新理論として期待されてきてはいるが、いまだにどの理論も観測・測定や実験・実証によって万人に普遍な真理としては確定的に承認されるまでには至っていない。(ちなみに、量子論や宇宙論でノーベル物理学賞を受賞した科学者は多いが、超弦理論やサイクリック宇宙モデルなどの分野で受賞した科学者はいない。超弦理論の騎手、エドワード・ウィッテンが数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞した理由は、超弦理論の功績ではなく、数学の功績であった)。
人類数千年の歴史の中で百花繚乱に花開いた宇宙論は数々あるが、その中で21世紀前半時点で、観測的証拠から唯一最大のものとして残り、天文学界で公認されているのが、LCDM(ΛCDM.ラムダ・コールド・ダークマター)モデルである。WMAP衛星やPlank衛星などの直近の観測データから確かに観測的に裏付けされており、現代天文学者達が尊重する唯一の宇宙モデルである。しかし、そのLCDMモデルでさえ将来消え去り、次世代のの新たな宇宙モデルに取って代わられる可能性も否定できない。結局のところ、物理法則そのものでさえ絶対的なものではなく、宇宙開闢から宇宙史138億年の間に変わり続けているのである。そして、これからも何千年何億年何千億年の後には、量子論・相対論などの20世紀の理論もすっかり色褪せ、21世紀の超弦理論や多重無限宇宙論でさえも、古びた歴史の藻屑と消え去るのかもしれない。
人類は、そして宇宙は未踏の領域へと進化し、最後には宇宙も素粒子さえも無限の彼方へと飛び散り、完全消滅してしまうのであろうか? それとも、サイクリック宇宙モデルの説くように宇宙も再び誕生し、また宇宙のサイクルを繰り返すのであろうか? ……人類と宇宙の行く手に待っているものは、The Endless Frontier(果てなきフロンティア)なのであろうか?
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